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盗賊や海賊なら割とすぐにイメージできるけれど、「義賊」の説明をしろと言われたら、ちょっと慎重にならざるを得ません。悪者か、正義かと問われたらまちがいなく悪者に分類されるけど、やっていることは世のため人のためになっているので、民衆から支持されているような犯罪者…というのが大まかな解釈でしょうか。
トミー=アンゲラーの名作絵本、「すてきな 三にんぐみ」は、そんな義賊をテーマにした作品です。
かなり過激な武器も駆使して、山賊行為を働いてきた三にんぐみ。ところがある時、一人の少女をかくまった事からちょっと事情が違うようになってきて…。
表紙にもニヒルさが全面的に出ている主役の三にんぐみは、始めからけっこう悪い人っぷりを発揮しています。分別のある大人としては「ええ~、ちょっとこれは…どうなんでしょう、いや良くないでしょう」と突っ込みたくなるほど。
テンポよく、でんぐり返しもある展開とラストシーンに小さな読者は安堵しつつ「あー面白かった!」と素直に楽しめるのですが、一方で大人の読者は「いいんだけど、うーん」と、最後までかなり逡巡が残る問題作である、とも言えます。人によっては、けしからん!と思う場合もあるでしょう。
むしろこの部分こそが、大人読者に対しての最大の醍醐味であり、作品にこめられたアイロニーともども、強烈なメッセージとして異彩を放っているところです。
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正義とは何か、悪とは何か?を若い世代に伝えていくのは、大人の大切な役割なのですが、実際にはその線引きがかなり難解であったり、立場によってどうとでも変化してしまうため断言ができない、というケースが多くあるものです。
そういったナイーブな問題に対しても、自らが悩み逡巡しながら、己に正直な意見を編み出す姿勢こそ、本当の大人の資質を磨く上で大切な作業なのではないでしょうか。真剣に読むと、かなりハードルの高いテーマでもある本書。自分に喝を入れたい時に、あるいは世の中について思いを馳せたい時に、特におすすめの名作です。
『引用:すてきな 三にんぐみ 作・絵:トミー=アンゲラー 出版社:偕成社』